福井市長撤廃に難色
福井市が昨年春、日常会話が不十分な外国人の市営住宅入居を拒否する内規を設けたことを巡り、外国人の差別解消などに取り組む二つの市民グループから内規撤廃を求める声が上がる一方、「意思疎通ができない外国人に囲まれた住民は不安だ」などと内規を支持する声も市に数多く寄せられているという。市はどう対応すべきなのか、課題を探った。(久米浩之)
市は昨年4月に「市営住宅入居事務取扱要綱」をつくり、外国人の入居条件をまとめた。永住者、特別永住者、3年以上日本に居住できると市長が認めた者を対象とし、「隣人とのコミュニケーションがとれる程度の日常会話ができる」ことを要求。いずれも、市の担当窓口がこれまで入居審査で適用してきた内容を明文化したという。
これに対して、先月27日と今月19日に、市民グループが「外国人も同じ住民として対応して」などとする要望書を提出。東村新一市長は先月28日の会見で「外国で生活しようと考えるなら、ある程度の日常会話ができるのが本来だ」と撤廃に難色を示した。市には先月中旬以降、52件の電子メールが寄せられ、「『言葉すら通じない』では(住民との)軋轢(あつれき)が生じざるを得ない」など約9割が内規を認める内容だという。
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市によると、市営住宅は計1957戸で、外国人世帯の入居は75戸(昨年4月1日現在)。今月20日、県内最多となる外国人世帯32戸が入居する東安居団地(333戸)を訪ねた。
ある無職男性(71)は「ゴミ捨ての分別をやってくれない」と話し、ある主婦(29)は「夜中に騒ぐ人がいるが、あまり言葉が通じず注意できなくて困っている」と漏らす。外国人入居者の多くは中国人。コミュニケーション不足や文化の違いなどでしばしばトラブルになるようだ。
こうした住民からの苦情も、市が内規を策定した要因といい、市によれば、昨年6月、市営住宅入居を希望して中国籍とみられる男女1組が訪れたが、通訳を通じて内規の説明を聞いて断念したという。
内規の条件にある「3年以上日本に居住できる」に該当する外国人は、外交官や大学教授、調理人など就労ビザのある人か、中国残留孤児の家族や日系ブラジル人ら。これまで門前払いとなったケースについて、市は「どんな経緯で訪れた外国人だったのかは詳しく把握していない」という。
外国人問題に詳しい田中宏・一橋大名誉教授(日本アジア関係史)は「言語能力を問題にするのではなく、サポート体制の充実に力を注ぐべきだ」とし、市営住宅などでは「全国的に(ゴミ出しなど住宅での)多言語表示が進められており、外国語の表示などは簡単にできるはず」と指摘する。
福井市の市営住宅には外国語表示もなく、トラブルがあっても基本的に住民同士の解決に委ねているのが現状だ。市には、内規撤廃論議を契機として、すぐに取り組める問題と中長期的な課題を整理し、〈外国人との共生〉に向けた対応が望まれる。
(2011年1月23日 読売新聞)
福井市の市営住宅で、外国人世帯が最も多い東安居団地。ゴミ捨ての案内表示は、日本語のみだ
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