2011/02/22

スイス出国を余儀なくされた日本人

チューリヒ州保安局の前で指揮をする山田さん。
今は不服申し立てが受理されるのを日本で待つ
(Keystone)

日本人といえども、EU及びスイスで就労することは難しくなっている 
とのことです。
欧州へのEU圏外出身者の移住は難しくなってきました。
長い記事ですので時間があったときにどうぞ。 



2月9日、スイス出国を余儀なくされた1人の日本人男性の話題がスイス各地のマスコミに取り上げられた。


新聞掲載を働きかけたのは、現在スイスを離れ日本に帰国中の山田幸央 ( ゆきお ) さん ( 30歳 ) を支援するスイス人たちだ。チューリヒ州のブラスバンドを指揮していた山田さんは滞在許可の延長申請を退けられ、2月10日やむなくスイスを後にした。

労働許可は特定の一つの目的で1人の雇用主を持つ人に

 EUとの2者間協定により、EU圏外出身の外国人がスイスで就労することは難しくなっている。日本人も例外ではない。

山田さんは2002年秋に滞在許可を取得し、チューリヒ芸術大学 ( ZHdK ) でオーケストラの指揮を学び始めた。その後、三つのブラスバンドで指揮を担当するようになり、学校でも講義を行なって生活費を工面しながら2010年夏に勉学を終えた。

スイスで外国人学生が滞在許可B ( 右欄参照 ) を延長できるのは最高8年間まで。山田さんはすでに複数の職を持っていたため、8年間の学生生活を終えた後、チューリヒ州に労働許可の申請を行った。しかし、連邦移民局が最終的に申請を却下。申請人は2人以上の雇用主を持ってはならないという規定があるためだ。

この規定に関し、連邦司法警察省移民局  (  BFM/ODM  ) のミヒャエル・グラウザー広報部長は次のように説明する。
「山田さんの滞在許可は学生用で、彼の職は学生のアルバイトという扱い。この職が労働許可取得に影響することはない。第三諸国出身者に対する労働許可は、外国人に関する連邦法に則り、一つの目的のために1人の雇用主を持つ人に対し、州別に定められた分担数通りに与えられる」

また求人に際して、雇用主はまずスイス国内で適材を探さなければならないという決まりもある。国内で見つからなければEU圏で、そしてそれでも無理な場合に初めてEU圏外からの採用が認められる。山田さんの雇用主はこの規定を知らなかったという。

不服申し立てを提出

 労働許可申請とは別に、山田さんはチューリヒ州に対して滞在許可の延長も申請した。しかし、当局は労働許可がないことを理由にこれを却下。山田さんはその後、滞在許可を処理するチューリヒ州保安省 ( Sicherheitsdirektion ) と労働許可を処理するチューリヒ州国民経済省 ( Volkswirtschaftsdirektion ) に対し、それぞれ不服申し立てを提出した。

現在、その申し立てが審査されている最中だが、結果は数日後に出るのかあるいは数カ月後に出るのかも分からない。滞在許可期間が過ぎた山田さんはスイス出国を余儀なくされ、現在日本でその結果が出るのを待っている。

住む国はスイス

 出国前日の2月9日、山田さんを支援する人々がチューリヒ州保安省の建物の前で彼との連帯を示すコンサートを行なった。これは山田さんにとって、もしかするとスイス最後のコンサートになるかもしれなかった。だが、山田さんは不服を申し立てていることもあり、
「これが本当に最後になるという気持ちはそれほど大きくはなかった。いつものようにコンサートを終えたという達成感の方が大きかった」
とそのときを振り返る。

山田さんがスイスの日常生活で使っていたのはほぼスイスドイツ語のみ。日本に帰っても「日本語がおかしい」と言われるほど地元の生活に溶け込んでいた。
「スイスでずっと生活してきて、これからというときに職も住まいもすべて失っての帰国。もちろんすごく悲しい。でも、同時にみんなのサポートがありがたい」
と複雑な心境だ。

チューリヒ州には山田さんの早期復帰を待ち望んでいるブラスバンドもある。しかし、山田さんの心は揺れている。
「スイスに帰れるかどうかは半信半疑。スイスの世論は僕に同情的だが、法律で定められていることなので不服申し立ての受理は難しいだろう。EU圏外の出身という理由が大きいのでは」
と話す。

スイスは日本と経済連携協定 ( FTEPA ) を結んでおり、人の往来の規制も緩やかになっている。この点についてグラウザー氏は次のように説明する。
「日本との経済連携協定の条件は、スイスがEUと結んでいる人の往来に関する協定の条件とは異なる。長期滞在の規制が軽減される対象は、企業内の幹部やトップスペシャリストに限られている」

日本に帰り、まずは心身を休めたいと言う山田さん。だが、彼の心はすでにスイスに深く根付いているようだ。
「生まれは日本だが、スイスは僕が属している国、生活していく国だと思っている」

小山千早 ( こやまちはや ), swissinfo.ch

Source: swissinfo

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